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一億総カメラマン時代の紅葉鑑賞

キーワードで振り返る平成30年史 第8回

 ミレニアムの平成12年頃からはデジカメも普及し始める。今度は現像も焼く必要もない。何枚写しても値段は同じ、気に入らなければ撮り直すだけ。件の名所でも撮ったばかりの写真を確認するために立ち止まる人たちが見れるようになった。とんでもない進歩だが、既にこの年には更に新たな撮影機器が誕生していた。「カメラ付きケータイ」である。シャープによって世に出され、今では当たり前になったこのツールは他社の追随もあって平成15年頃には携帯電話の主流となる。あれだけ見かけたレンズ付きフィルムもすっかり見なくなった。私はいつしか紅葉ではなく撮影機器の変遷を確かめるために名所に足を運ぶようになっていた。 

 ケータイ付随のカメラは年々大きな進歩を遂げたが、平成20年に黒船が襲来し勢力図を書き換える。それがiPhone。iPhone4が登場し対抗馬となるアンドロイド端末が各社から出揃った平成22年頃には従来型の携帯電話はガラケーと呼ばれるようになり多くのユーザーがスマホに切り替える。もちろん私もスマホ普及率をチェックすべく例の名所へ。案の定、それは見事なくらいあちらでもこちらでも垂直にスマホを構える人にでくわした。

 そんな紅葉の名所に私が最後に足を運んだのは数年前のこと。同伴者は父。竹筒に入った日本酒を嬉しそうに掲げる彼を撮影したのはスマホだった。まさかその写真が遺影になるとは…。普段は見せぬような笑顔を浮かべた父のその写真は、スマホの手軽さが引きだしたショットだった。さすがにインスタに挙げることはできないが私にとっては忘れられない写真となった。

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後藤 武士

ごとう たけし

平成研究家、エッセイスト。1967年岐阜県生まれ。135万部突破のロングセラー『読むだけですっきりわかる日本史』(宝島社文庫)ほか、教養・教育に関する著書多数。


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